陰と影の意味とは?
どう違うのか。
草かんむりをつけた陰とは違うのか。
広辞苑で調べても、
かげ【影・陰・蔭】と同時に書かれていて、
違いがハッキリわからない。
漢字の会意(かいい)や公的機関の見解を
借りつつ、明らかにしましょう。
同訓異字「陰」と「影」~国の見解は?
陰と影の意味と違いは何か。
漢字などから意味や違いを見ていく前に。
まず、国の公的な見解をみていきましょう。
「陰」と「影」は同訓異字(どうくんいじ)ですね。
異字同訓(いじどうくん)ともいいますが、
同じ訓(よみ)で異なる漢字の組み合わせのことです。
「かげ」と同じ訓(よみ)をもつ「陰」と「影」。
この異字同訓には、使い分けを例示した
公的な見解があります。
国の一部門が、使い方の例を示してみせています。
文部科学省に設置されている「文化審議会」が作った、
『「異字同訓」の漢字の使い分け例(報告)』※1
この資料で確認することができます。
なんと書いてあるのか。
そのままお借りして記してみましょう。
かげ
【陰】 光の当たらない所。目の届かない所。
山の陰。木陰で休む。日陰に入る。陰で支える。陰の声。陰口を利く。【影】 光が遮られてできる黒いもの。光。姿。
障子に影が映る。影も形もない。影が薄い。月影。影を潜める。島影が見える。
出典:PDF 「異字同訓」の漢字の使い分け例(報告)について(平成26年2月21日)
「常用漢字表」から
陰
イン 陰気、陰性、光陰
かげ 陰、日陰
かげる 陰る、陰り
影
エイ 影響、陰影、撮影
かげ 影、影絵、人影
出典:PDF/常用漢字表(平成22年11月30日内閣告示)
※1 2014年(平成26)に文化審議会国語分科会によって
作成されました。
1972年と2010年にも、同様の会がありました。
さすが、わかりやすいですね。
「光」の強弱や状態で陰と影の違いがあるとわかります。
漢字に光を当てて、意味や違いをみていきましょう。
「陰」と「影」の漢字と意味
陰 | 影 | |
読み方 | かげ かげ(る) くも(る) くら(い) | かげ |
音読み | イン アン オン | エイ ヨウ |
部首 | こざと・こざとへん・おか 阜 | さんづくり 彡 |
画数 | 11画 | 15画 |
意味 | かげ、日かげ。日光のあたらない所。くらいこと。 山の北、河の南側の地。 くもる。かげる。暗くなる。 かくしどころ。 おおう。かくす。おおいかくす。 ひそかに。こっそりと。 受動的、消極的、静的なもの。 | かげ。光の当たらない暗い部分。 さえぎられてできる暗い部分。 かげ。鏡や水に映る姿。 かげ。写真や絵画にうつしだされた姿。 かげ。人の姿。物の形。背景から浮かび上がった姿。 かげ。月などが物を照らす光。 |
【陰の解字】
会意兼形声
右側「云(くも) + 音符今(=含、とじこもる)」
湿気がこもり気苦しいこと。
陰は、阜を加えた字、陽(日の当たる)の反対。
日の当たらないかげ地のこと。
中に閉じ込めてふさぐの意味を含む。
〈単語家族〉
含(ふくむ)、禁(出入りをふさぐ)、暗(ふさがってくらい)
【影の解字】
会意兼形声
景は「日(たいよう) + 音符京」からなる。
日光に照らされ、明暗のついた像のこと。
影は「彡(模様) + 音符景」
光により明暗がでる。境界がつくこと。
また、その暗い部分。
〈単語家族〉
境(さかいめ)、映(明暗の境目を映し出す)、鏡(明暗を映す)
陰の例文と読み方いろいろ
【陰】
読み方
かげ いん くも ほと ひそか くもり かく みほと カゲ おん
例文
「かげ」
ルパンは素早く少年の身体を抱えたまま、油絵の陰に入って戸を閉めた。
ルブラン・モーリス『奇巌城』
「くも」
廿四日 寒さ骨に透(とお)る。朝日薄く南窓を射、忽ちまた陰(くも)る。
正岡子規『雲の日記』
「ひそか」
昨夜も昨夜とて小児の如くに人を愚弄して、陽(あらわ)に負けて陰(ひそか)に復(かえ)り討に逢わした
二葉亭四迷『浮雲』
【影】
読み方
かげ うつ すがた えい
例文
「かげ」
彼の影は左には勿論、右にももう一つ落ちている。
芥川龍之介『誘惑』
「すがた」
母はこの子の後ろ影(すがた)をにらみつつ叫びぬ。
徳富蘆花『小説 不如帰』
「えい」
かなりの影(えい)きやうをあたへるのだ
宮沢賢治『春と修羅』
陰鬱(インウツ) 空がくもってうっとうしいこと。陰気な気持ち。
陰険(インケン) うわべはおだやかに装うが、悪意がありよこしまな心、行動。
陰地(インチ) 日のかげ。湿った土地。
隠匿(イントク) かくれてあらわれないようにする。
陰謀(インボウ) 秘密の企み、計画
影響(エイキョウ) 影と響き。光と音のこと。
面影(オモカゲ) 顔や姿、物のありさまがいかにも見えるさま。
影供(エイグ) 神仏や故人の影像に供物を捧げること。
幻影(ゲンエイ) 幻覚。存在しないのにあるように見えるさま。
陰は物に遮られた場所。影は光が当たらず暗くなった場所。
影は物に遮られて暗くなった場所。
「蔭」と「翳」も「かげ」~その意味と違い
蔭 | 翳 | |
読み方 | おお(う) おかげ かげ しげ(る) | かげ かげ(り・る) かざ(し・す) かす(む) くも(り) |
音読み | イン | エイ |
部首 | くさ・くさかんむり・そうこう | 羽(はね) |
画数 | 14画 | 17画 |
意味 | かげ。木陰。日陰。 おかげ。恩恵。助ける。 おおう。かばう。しげる。 | おおい。おおう。おおいかくす。かざす。かざし。 くもる。かげる。しりぞける。 かすみ目。目がかすむ。 さしは(羽毛製の日除け傘) |
【蔭の解字】
会意兼形声
「艸 + 音符陰(ひかげ、くらい、中にこもる)」
【翳の解字】
会意兼形声
上部の字(音エイ)の会意~
矢を箱の中に隠すことをあらわす。
そこに羽をつけた字。
【蔭】
日蔭(ひかげ)
蔭位(インイ) 父祖のてがらのおかげで得る位。
蔭官(インカン) 父祖のてがらのおかげで得た官職。
蔭庇(インピ) かばい助ける。
隠蔽(インペイ) おおいかくす。
【翳】
陰翳(インエイ) かげ。くもり。深みがある。
翳翳(エイエイ) ほの暗いかげの生じるさま。
雲翳(ウンエイ) 雲のかげり。曇り。
蔭は「くさかんむり」がつくように、
「木陰」「草葉の陰」といった緑草のイメージがありますね。
翳は、貴人の行列につかう「さしは」
鳥の羽などで作った扇形に長柄をつけたもの。
「手を翳(かざ)す」「翳(かげ)りがさす」といった表現があります。
まとめ
陰は光が当たらない場所。
陰は物に遮られた場所。
影は光が当たらず暗くなった場所。
影は物に遮られて暗くなった場所
蔭は陰であり、草でおおわれたかげ。
翳は内面の暗さ、かざしてさけるかげ。