「葉桜の季節になりました・・・」
葉桜(はざくら)って綺麗な言葉ですね。
だけど、人によって言葉から想像するイメージは大きく違ってくるのかも。
葉に注目するのか、桜に注目するのか・・・。
ところで「葉桜」の季節とはいつを指すのか?
そもそも、葉桜とは何か?
葉のことなのか、花のことなのか、両方なのか。
葉桜にまつわる、あれこれを調べてみました。
葉桜の時期 いつからいつまで?
広辞苑によると、葉桜は「花が散って若葉が出はじめた頃の桜」とあります。
大半の桜は、花が先に咲き、その後葉が茂ります(ヤマザクラなどは花と葉が同時)。
桜が満開になって少しずつ散り始め、若葉が芽生え、完全に緑で覆われるまで。
桜の木に「花と葉が同時に存在している」移り変わりの期間を「葉桜」と呼びます。
桜が咲く時期に少し差があるものの、
4月から5月の間頃が一般的に「葉桜」の季節となります。
地域や気候により、6月の初めも含んでもいいのかもしれません。
1桜が満開の時期を越える(若葉が出始めます)
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2徐々に桜が散っていき、若葉が増えていく。
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3桜の花びらがすべて散り、赤茶色の桜の軸(花柄・かへい)が残る
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4花の軸やがてそれらも落ちて、すべてが新緑で覆いつくされたとき
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---ここまでが「葉桜の時期」---
5その後
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暫くの間は桜の木が緑で覆われていますよね。
上の例でいう「5」の時期は「葉桜」には当てはまりません。
淡いピンクに緑色が混ざり、
やがて緑に赤茶(桜の軸・花柄)がわずかに混ざり、
完全に緑色になるまで。
桜の木を遠目で見たときの色。
満開の桜だけでなく、その後の曖昧な色の移り変わりも楽しむための言葉でもあるようです。
これが「葉桜」です。
桜の開花と葉桜の時期を表にしてみました
表にすると、こうなります。
おおよそ、緑の文字の時期が「葉桜の候」。
桜の開花 | 葉桜 | |
開花 | 限りなくゼロ | ー |
一分咲き | 10% | ー |
三分咲き | 30% | ー |
五分咲き | 50% | ー |
七分咲き | 70% | ー |
九分咲き | 90% | ー |
満開 | 100% | 若葉の出始め |
一分葉桜 | 90% | 10% |
三分葉桜 | 70% | 30% |
五分葉桜 | 50% | 50% |
七分葉桜 | 30% | 70% |
九分葉桜 | 10% | 90% |
葉桜 | 0% | 100% |
葉桜の時期には、はっきりと始まりと終わりがありますが、
桜の季節自体が場所や地域によって微妙に違いますので、少し曖昧さもある言葉。
季節の移ろいによって変わる言葉とは、素敵ですよね。
葉桜の言葉の意味
広辞苑では「①花が散って若葉が出はじめた頃の桜」が「葉桜」でした。
さらに掘り下げてみるともうひとつ、
日本国語大辞典には「②美しさのさかりを過ぎた年増の女性」という意味も載っていました。
雑俳・あふむ石(1839)
「ゆだんならぬ・葉桜葉桜に見せぬ」
年増!
久々に文字で書いた気がします。
年増
娘盛りを過ぎた女性。一般に30歳代半ばから40歳前後までの女性をいう。
江戸時代には20歳前後を年増、20歳を過ぎてから28、9歳ぐらいまでを中年増、それより上を大年増といった。デジタル大辞泉より引用
今はジェンダー差別の言葉ですね。
青々と茂る緑は、むしろ「青春・若さ」の象徴のようにも感じますが…
時候の挨拶や季語に使う「葉桜」
意味の上では4月・5月頃を指すのですが、俳句の季語では、葉桜は「夏の季語」。
旧暦の「夏」は、現在の暦(新暦)でいうなら4月~6月頃を指します。
思い浮かぶ「新緑」のイメージも併せて考えると、6月に使うには少し遅いのかなあ~と。
挨拶文に添えるなら、暦の立夏の頃(新暦で5月5日頃)、5月に使うとちょうど良いと思います。
俳句などでも、青々しい初夏の頃を詠う作品が目立ちますよ。
葉桜を別の言葉に言い換えると?
江戸時代に大阪で詠まれた雑排集「住吉みやげ」に登場する葉桜は「青桜」と表現されています。
雑俳・住吉みやげ(1708)
「しんかんと此方の気までも青桜」
英語だと「葉桜」は何か?
英語ではっきりと「葉桜」を指す言葉はないようでした。
手元の辞書を調べると
a/the cherry tree in leaf
the cherry tree after the blossom
こんな表現や説明はありましたが、英単語としては存在しないようです。
葉桜が登場する文学作品
葉桜と魔笛・太宰治
文豪・太宰治は『葉桜と魔笛』という短編小説を残しています。
作中にある、海の向こうからの「とどろとどろという砲声」とは、日露戦争海戦の大砲の轟(とどろき)のことです。
日露戦争海戦は、5月27日・28日にありました。
「野も山も新緑で、はだかになってしまいたいほど温く~」と作中の女性は5月の半ば頃だったと昔話をしています。
葉桜の季節に君を想うということ・歌野 晶午
おじいちゃんは「本当に事故死か」。
「何でも屋の僕」が、ほのかに好意を抱く女性からの依頼で
おじいちゃんの死因を探るうち、新たな事件に巻き込まれていく物語。
思い込みや固定概念をうまく利用した現代ミステリーで、
葉桜の季節や意味を知ったうえで読めば、ラストで「ほぉ~」となり、大変面白いです。
ミステリー小説。2004年「日本推理作家協会賞」を受賞しています。
葉桜の日・鷺沢 萠
上智大在学中に文學界新人賞で作家デビューした鷺沢萠さんの1993年の作品。
「志賀さん」に引き取られて育った主人公の僕。
他人に育ててもらったという感覚はないけれど、僕は誰なんだろう?
軽いタッチの青春小説ですが、ステップファミリー、自分の出自、国籍といったテーマが曖昧に織り交ぜられた繊細な作品。
葉桜・岸田國士
岸田國士氏は、昭和初~中期にかけて活躍した劇作・演出家。
女優の岸田今日子さんの父でもあります。
能や歌舞伎とは違う、新しい近代の演劇のスタイルを確立した祖ともいえる人物です。
戯曲「葉桜」は、娘の幸せを願う母と、見合い相手の心が読み取れず戸惑う娘の会話劇。
舞台設定は、4月下旬の葉桜の頃。
青空文庫で読むことができます。
葉桜の色は?
葉桜と名付けられた色があります。
きもの用語大全によると
葉桜
[表地] Webカラー値 #A7BD00
表地に萌黄、裏地に二藍を配した色目です。
花が散り、青々とした若葉が太陽の光に映えるころの桜の木立を表現しています。
薄桜萌黄と似た、落ち着いた色合いです。
[裏地] Webカラー値 #888ABC
薄~い絹の重なった着物、袿(うちぎ・うちき)の裏地の色が、表によく透けて美しい色調が作り出されます。
これらの色味に昔の人は、ひとつづつ季節表現を重ねて名前を付けました。
襲の色目(かさねのいろめ)という配色一覧があるのです。
袿は5つ衣なので、5枚、5様のグラデーションで色と季節を表現し名付けしました。
織糸で表す織の色目は「織色」、狩衣の表裏で表す重ねの色目は「色目」と、生地や装いで呼び名や配色も変わるそうですが、四季折々を色彩に表し文字に表した色味の一覧があり、そのひとつに「葉桜」があります。
装束としての「葉桜の色」は「青(紺~緑系統の色)」に分類されます。
何パターンか透けたイメージを作ってみました。
重なった部分の色が、着物の世界での「葉桜」の色なんですね。
ただ単に一色を表すだけでなく、季節によって生地目や織り方を変えて、グラデーションの配色に名前まで美しく名付けて。
なんとも高い美意識ですね。
葉桜のまとめ
葉桜とは、言葉の上では、
桜の花が散り、若葉が芽生えて新緑で覆われる「までの期間」の桜木のさま、色の移り変わりを指す言葉。
また、古くは「娘盛りを過ぎた妙齢の女性」もさす。
具体的な時期は、意味の上では4月・5月頃だが、夏の季語。
挨拶文や季節を表す表現をするなら、5月頃がおすすめ。
葉桜の色は、伝統的な色目の名前で「萌黄と青若葉」の2色を重ね合わせた配色を指す。
以上が、葉桜という言葉にまつわる意味や時期についての解説でした。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。