最近ネットでよく見かける
「エグい」という言葉。
あれれ、これってイイ意味?
いつから良い意味で使うようになったのでしょう。
「えぐい」の語源や本来の意味、
変わってきた使われ方を、用例付きで解説します。
また、グロいの語源や、
「エグい」と「グロい」の違いや、ラグいの意味なども紹介します。
本来の「えぐい」の意味とは?
「えぐい」とは辞書には、なんと書いてあるか。
まずは、お堅い・まじめヴァージョンでみていきましょう。
【えぐい】
①あくが強く、のどをいらいらと刺激する味がある。えがらっぽい。
「この芋はすこしえぐい:〈和名妙(17)〉」
②気が強い。また、冷酷である。
「おなごだてら此中間へ入り、根つからよめりせず立て歩くえぐいしろもの:洒落本、列仙伝」
「おまへもえぐい与太郎ぢゃ:洒落本、二日酔巵觶」広辞苑 第5版 岩波書店より引用
列仙伝(れつせんでん)は、
「70人の仙人」についての神話や伝記をまとめた、中国道教にまつわる説話集。
仙人について記し残された書かれた書物としては、中国最古のものといわれています。
二日酔巵觶(ふつかよいおおさかずき)は、江戸時代の大衆向け人情本。
現代でいうなら、ラノベ(ライトノベル)といったところでしょうか。
和名抄は、『和名類聚抄(わみょうるいじゅしょう)』のこと。
平安時代中期の辞書。
辞書にも、大衆本にも残っている「えぐい」、
古来からごく普通に使われてきた言葉のようです。
ネットで検索すると、こう出ます。
【えぐい】
あくの強い嫌な刺激のある味覚、
または、表現や描写がどぎつい・むごい
非常に甚だしいさまなどを形容する表現。Weblio 実用日本語表現辞典より引用
「非常に甚だしいさま」が増えています。
現在では、悪い意味ばかりで使うのではなさそうです。
元々の意味はどんなものだったのか、調べてみます。
「エグい」は漢字でどう書くの?
「えぐい」は漢字もエグいです。
3つの漢字があります。
まずはこちら。
「えぐい」の漢字① 蘞
【蘞】
「蘞」という漢字には、
①えぐい、いがらっぽいという意味があります。
部首は草かんむり、音読みが「レン」。
②また「蘞」は、ぶどう科の多年草の名前でもあります。
味はわかりませんが
白、青、紫と、カラフルな実をつけるそうなので、
いかにも甘そうだと思ったら、えぐかったのかもしれませんね。
蘞(植物)
「アンペロプシス(野ぶどう)ジャポニカ」と学名が付いていますが、原産は中国で鏡草(かがみくさ)と呼ばれることもあります。
漢方薬になると白斂(ビャクレン)という鎮痛剤になります。
「植物の名前を探しやすい デジタル植物写真集」さんに、
鏡草の花や実の写真があったのでリンクを掲載させていただきます。
http://plantidentifier.ec-net.jp/s_kagamigusa.html
「えぐい」の漢字② 刳
また、「えぐい」は「刳い」とも書きます。
【刳】
こちらは、部首が刀(りっとう)。
音読みが「コ」
えぐ(る)のほかに、
く(る)、さ(く)とも読めます。
「くる」とは、穴をあけることです。
意味は、(刀や尖ったもので)えぐる・くりぬく。
または、さく。切りさく。
切りひらくという意味があります。
「えぐい」の漢字③ 醶
また、「えぐい」は「醶い」とも書きます。
【醶】
部首が酉(とりへん)。
音読みが「カン」「ゲン」
意味は、塩辛い味や塩分、酢。すっぱい液体。
えぐいの漢字は3つありました。
意味も文字通り、エグかったですね。
漢字や辞書からイメージが掴(つか)めてきたのでは?
ここまでは、古来からあった「えぐい」の元々の意味。
辞書にある意味の他にも
「エグい」は違った使い方があります。
次は、そちらをみていきましょう。
辞書にはない、現代の「エグい」の意味
「えぐい」は、味のえぐみの他に、
「つめたい・気が強い・あくが強い」という意味がありました。
そこから転じたのか、意味合いが少しずつ変遷していきます。
関西圏発祥の「えぐい」
関西圏では「えぐい」を
「露骨だ、ずうずうしい、遠慮がない、いやらしい」といった、もっと感情的な意味で使うようになりました。
大阪だと、「むごい」「むごたらしい」といったニュアンスです。
京都だと、「キツイ」「辛辣(悪辣)」といった意味があります。
嫌悪感を覚えるほど、卑劣だ。
気持ち悪いほど、残忍、残虐だ。
こういった激しいニュアンスを含む「えぐい」がさらに転じて、
若者の間で、
「きつい・きびしい・つらい」といった意味で使われるようになっていきます。
1980年代の「エグイ」
「えぐい」が、若者言葉として定着した頃から言葉の意味が変わりだしました。
1981年のTVCM(コンタック600)の中で、
女優の中原理恵さんの
「エグぐいんじゃないの~」というセリフから
流行語になり「エグい」が全国区になっていきます。
CMでは、ポジティブな意味で使っていますよね。
本来の「ひどい」の意味合いだけでなく、
正反対の意味でも使われ始めるようになったのが、この頃だといわれています。
「すごい」というニュアンスでしょうか。
そして令和の「#えぐいてぇ」
「えぐいて」という言葉が、
若者を中心に、再び人気になっているようですね。
ビジネスインサイダーさんによると、
2019年には、ハッシュタグから集計した流行語の
第3位が「えぐい」だったそうです
(2019年上半期・(株)パスチャー調べ)
※ハッシュタグ
特定の語句や文章に#をつけて投稿することで、
タグ付け(ラベルや荷札をつけておくイメージ)され、
そのタグがついた多くの投稿がまとめて見られるようになる機能。
令和の流行り・エグいの意味と使い方
実際にはどんなふうに使うのでしょうか。
子に聞いてみました。
友人がふざけてくり出したパンチが、みぞおちにクリティカルヒット。
もろに入ってしまった時。
「いたた、それはえぐいてぇ…」
長蛇の列に並ばなければならないとき。
「列、えぐいてぇ…(溜息)」
テストが難しすぎたとき
A「今回のテスト、エグすぎやろ…」
B「だな…」
目の前を、かわいい猫が通りすぎたとき。
A「あの猫、かわいいな」
B「えぐっ(本当だ)」
ポジティブでも、ネガティブでも使うのは健在な様子。
ただし、以心伝心ができない相手や
判断が分かれるような事項の場合は、説明も添えて使うようです。
A「あの猫、えぐいな~」✖
↓
B「えっ??」
かわいいのか、そうでないのか、
汚いのか、怪我でもしているのか?
何がエグいのか、はっきりしない。
古来の意味「ひどい・むごたらしい・忌まわしい」。
悲しく痛ましい出来事にも使うことはあるものの
「てぇ~」をつけて、軽く使うことはほとんどないそうです。
用例にするなら
「あの事件、えぐすぎるよね…」といった感じ。
古語の「いみじ」を軽くしたような、流行語。
俗語(スラング)という位置づけとのことでした。
いみ・じ
「い(忌)み」の形容詞化。
忌まなければならないほどひどい、というところから
善悪ともに程度のはなはだしいさまにいう。1 下にくる被修飾語の程度が並々でないさまを表す。はなはだしい。著しい。
2 被修飾語に当たる具体的内容が省略され、文脈から補わなければならない場合。
㋐(望ましいものについて)たいそうすばらしい。たいそううれしい。すぐれている。
㋑(望ましくないものについて)たいそうつらい。ひどく悲しい。すさまじい。ものすごい。
なるほど、氷解しました。
「えぐい」と同様に
「ヤバい」も元来の悪い意味だけでなく
「良い・すごい」の意でも若者が使っていますね。
甚だしく「良い」「悪い」の
どちらかをあらわす過去の流行語には
「イケてる(良)」「イカした(良)」
「チョベリバ(良)」「チョベリグ(悪)」
「ナウい(良)」「イマい(良)」「ダサい(悪)」などがありました。
「グロい」の意味と「エグい」との違い
「グロい」の意味とは?語源は不思議な絵から
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「グロい」はもともと、外国の言葉。
英語のグロテスク(grotesque)を
輸入して日本語になりました。
グロテスク(grotesque)は、
古代ローマの美術様式や文学、建築を指す用語です。
語源は、イタリア語の「grotta(グロッタ)」。
グロッタは、地下墓所や洞窟を意味します。
地中から発見された遺跡の、内装に関係があります。
壁面に描かれた、アラベスク模様のような連続柄。
「グロテスク様式」と呼ばれる、
装飾、模様を指す、単なる美術用語でした。
発見された回廊は、西暦64年にネロ皇帝が建築を進めていたドムス・アウレア。
火事が起こり、完成されることがなかった未完の宮殿です。
ドムス・アウレアの回廊の内装は、
人物が魚や動物へ連続して変化したり、
あるいは人と動物が融合していたり、伝説の生き物だったり、サイズ感がおかしかったり。
そこに植物のつる模様などが加わっている、風変わりなものでした。
この「風変わりな連続柄」が転じて、
「異様な、奇妙な、奇怪、不調和、不気味」を指す言葉で使われるようになります。
日本にも、
グロテスクは同じ意味で輸入されたのですが、
縮めて略して使われるようになり
「グロい」「グロ」でも通じるようになりました。
グロい映画、グロ系映画、グロい系映画、グロ映画。
小説、アニメ、ゲームなどにも使います。
心理的に、じわじわとくるものではなく、
見た目の不気味さに対して使います。
ホラー映画のスプラッター(血しぶきがあがるような、生々しい演出の)ジャンルに近いかもしれません。
グロ規制とは
日本で販売される
一部のコンピューターゲームソフトには、
CERO規制という表現の規制項目があります。
「暴力的・性的・反社会的・思想的」の4つの区分の
表現方法に上限を設け、
度合いに応じてレート(年齢制限)をつけて販売する取り決めとなっています。
機構の規制項目から一部抜粋させていただきます。
レーティングの対象となる【暴力行為】
出血描写、身体の分離・欠損描写、死体描写
殺傷、恐怖、対戦格闘・ケンカ描写その他の規制項目はこちら
引用元:CERO=特定非営利活動法人コンピュータエンターテインメントレーティング機構
暴力的・生々しい描写などはここで規制されていて、
俗に「グロ規制」と呼ばれています。
「グロい」と同様に輸入されて「い」がついて形容詞化した言葉
「エロい」「エモい」「ラグい」なんて言葉がありますね。
「ラグい」は、タイムラグ(time-lag)
時間のズレからきています。
オンラインゲームなどで、回線が重い、遅い場合に使います。
カクカク、くるくる状態の時ですね。
「エモい」はエモーショナル(emotional)
感情、情緒が揺さぶられたときに使います。
「グロい」と「エグい」の違いは何か
「グロい」とは、
形やサイズが不自然に歪んでいたりして
見た目が異質で不快、おそろしい。
こういった意味でした。
では、「エグい」との違いは何か。
「グロい」は物など対象の形や様子を形容した言葉です。
物質や物体自体を表現しています。
一方、「エグい」は味の「えぐみ」の他、感情と状態を形容しています。
こころの内を表現した言葉ですね。
「エグいてぇ~」の次は「グロいてぇ~」?
最近、よく聞く「えぐいてぇ~」も「えぐい」の派生語ですよね。
えぐいてぇ~の言葉の元ネタは、
チャンネルがーどまんと称するYouTuberさん達が
よく発する「言葉」から来ているそうです。
拝見して、再度納得。
「エグい」に感情が入っていますよね。
言葉の語尾を聞くと、
この「エグいてぇ~」は方言です。
関西の人には、「◯◯てぇ~」とよく使う人がいます。
〇〇なんだよ~。〇〇じゃんか~。〇〇だろ~。
これらに近いニュアンスですね。
単に「エグい!」「えっぐぐぅ」と言ったら、
角が立つので、語尾に「てぇ~」がついているのかもしれません。
「てぇ~」がつくことで、強度を濁(にご)す感じです。
微妙なグロテスクさを示す若者用語に「微グロ」というのを聞いたことがあります。
「微妙なグロテスクさ」ですね。
であれば、「微グロ」の代わりに
「グロいてぇ~」も、使うことはできそうです。
あまり、使いたくはないですが。
まとめ
「エグい」には、
味のえぐ味、味の塩味、酸味。刃物のエグる。
こういった意味があるのでした。
「えげつない、むごい、きびしい、気色悪い」
これらのマイナスの意味に加えて、
「スゴイ」「かっこいい」というプラスの意味も含む、形容詞として使われるようにもなりました。
令和の「えぐいてぇ」は、
若者の「すごい!」的スラング・俗語。
いい意味でも悪い意味でも使われる。
古語で近い言葉を探すなら「いみじ」。
再ブレイクの元ネタは、
注目されているYouTuberチャンネルがーどまんさん。
「えぐい」という言葉を
全国区にしたのは1980年代の風邪薬のCM。
それ以前は、関西圏の方言。
元々は、平安時代から存在する「凄惨・むごたらしい」という意味の言葉。
グロいは、グロテスクから。
古代ローマの連続柄・模様を表す美術用語「グロテスク様式」から
不気味・奇妙という部分だけが独り歩きし
見た目が恐ろしい、生々しく不快、といった意味合いに転じて使われています。
ラグいは、タイムラグ(時間の遅延)から。
エモいは、エモーショナル、感情が揺さぶられたとき。
